筆おろし野郎の顛末

筆おろし野郎がどうなったのかって?

当日の朝。

特に服装は指定しなかったがガレージファクトリーに現れた筆おろし野郎は完全武装だった。

アウトドアウェアにウェーダー、キャップ、偏向グラス、しかも手には真新しいリールを持っている。

「買っちゃいました。」

テレ笑いする童貞野郎。

Dropsは今まで作ってきたテストモデルから、比較的比重が高い(重い)シルバー3本とゴールド2本、ブルー1本を選んだ。

アクションさせることよりも、素直にただ引きでもアピールする。
DROPSのテストモデルでは比重が高いものはそういう傾向にある。

念のためクリップに引っ掛けて振ってみてウォブリング支点の位置とローリングが干渉していないか確認。

Drops 「さてフックつけるか。」

Dropsは前日彼にフックとスプリットリングだけ用意するように申し渡してあった。

Drops 「フックとリングは?」

筆おろし 「え ないっす。」

Drops 「….」

Drops 「俺買っておくように言わなかったっけ?」

筆おろし 「これなら買いました。」

筆おろし野郎が差し出したものは極小スナップ。

Drops 「…」

彼の左手には真新しいリール。そして右手にはスナップの小袋。

Dropsは思い出した。幼少のみぎり、カレーの材料のおつかいを頼まれ、肉屋で高い肉を買ったばかりにカレー粉が買えず、親にこっぴどくしかられたのを。

なんとか準備が整い、川についたのはすでに10時。

Dropsが選んだ場所は、堰堤プールから上流に太く緩やかな流れが続く約200メートルの区間。

記念すべき筆おろし野郎のファーストキャストは見事な放物線を描き、DROPSは対岸の藪の中に消えた。

ルアーを投げるぎこちない動き。

流れが急であろうが、迂回せずにまっすぐ川底に引っ掛けたルアーを回収に向かう筆おろし。

「川はこえーぞ。流されたらバランスなんか取れねーぞ。」

念押しにおどしつつも、そんな彼を見ていると、なんだか自分が初めてルアーをはじめた頃のことを思い出した。

15分もすると筆おろしはなんとかキャストできるようになり。

30分もすると目標としているであろう範囲になんとかルアーが届くようになってきた。

しかし彼の動作を見ていると、これでは釣れないと思った。

それでも彼はひたすらもくもくと投げ、もくもくとリールを巻いている。

Dropsは前日にどうしても彼に1尾釣らせたいと思った。

しかしどうしたことか、ひたすらもくもくとリールを巻いている彼を見ているうちにすっかり気が変わってしまった。

あれこれアドバイスしても、いきなり出来るわけではない。

その結果1尾釣れたとして

「1尾釣らせてもらえた。釣りを楽しませてもらえた。」

それも釣りのプロセスでとても重要なことだとは思う。

しかしそれが本当の釣りだろうか。

釣りは狩猟だ。

全てが自分の力。だから楽しい。そうDropsは思う。

別に教えなくても、彼からは十分に真剣なオーラが伝わってきた。

近くでじっと見たり、場所を変えろと言ったり、あえて手取り足取り一切教えなかった。

Dropはそんな彼を遠目で見ながら同じ場所でひたすらテストモデルの流芯脇の挙動を観察する。

そのまま3時間経過。

そろそろ帰る時間だ。

「今日は厳しいな。」

Dropsの声にはっと我に返って振り向く筆おろし。

「こんなんでいいっすか?」

「大丈夫、キャストもずいぶんうまくなったし、もっと場所を変えていろいろ試してみればきっと釣れるよ。」

ひたすら我を忘れて投げて巻き続けた彼。

その忍耐と情熱を持ち続ける限り、きっといつか1尾が釣れるに違いない。

その瞬間に彼の筆おろしは完了する。

その時は一人でその喜びを噛み締めればいい。

帰り道、Dropsは静かで安らかな気分だった

っていうか結局俺もボウズだった…。

彼の筆おろしが完了したらまた報告します。

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