あいかわらずの長文となります。
「その忍耐と情熱を持ち続ける限り、きっといつか1尾が釣れるに違いない。
その瞬間に彼の筆おろしは完了する。その時は一人でその喜びを噛み締めればいい。」
今読み返してみるとなんとキザな文章だろうか。我ながら笑ってしまう。
Dropsのブログ記事は以前のブログからそのまま引き継いでいる。
筆おろし記事以外のルアーに関するものを含めて改めて読み返すと、たまらなく恥ずかしく思えるところが多々ある。
今思えば当たり前のことにあまりに深く執着したり、思い込みもあったり、間違いもある。
しかし、これもDropsの嘘偽りのない記録だから削除するつもりはない。
いずれそれらのひとつひとつを引用しながら、訂正しつつ現在のDropsの考えを書かなくてはならないと思っている。
DROPSのHP&BLOGを見ていただいている皆さんとは、これからも永いお付き合いになるのだから、それでいい。
そう勝手に思っているDropsです。
さて、筆おろし野郎の顛末で彼がまだルアーフィッシング童貞であることは以前にお話した。
その記事を投稿した翌日にDropsはなんとも言いようのない不安な気分に襲われた。
筆おろしに断りもなくこういう投稿をし、その内容を知ったら本人はどう思うだろうか。
自分だったら笑って許すが、世の中自分のような人間ばかりではない。
Dropsはそのことが気にかかっていた。そんなに気にかかるぐらいなら削除しようとも思った…
悶々とそんなことを考えるよりも、とにかく本人に話そう。
そう思い立って筆おろし野郎に投稿のことを説明し、事後報告を詫び、不快であればすぐ削除することを伝えた。
投稿を読みおえた筆おろしはにこにこ笑いながら
「別にいいっすよ。おもしろいじゃないですか。」
筆おろし野郎はDropsと同系列の人間だった。 ほっとした。
「ところでDropsさん。」
「はいよ。」
「次はいつ行くんすか?」
「へ?」
「だから筆おろしですよ。」
「・・・そ そうだね。筆おろししなくちゃね。必ず1尾釣らなくちゃね。」
そんなわけでDropsはすでに投稿の翌日から「一人で喜びをかみ締めろ」などと偉そうなことは言えなくなっていたのだ。
こうなったら何が何でも筆おろし野郎に1尾釣ってもらわなくてはならない。
そして迎えた約束の日の朝。
4:30にガレージファクトリーで落ち合う予定だった。
しかし起床したDropsの目に飛び込んできた時刻は7:56分
携帯には筆おろしからの着信7回。 3時間26分の朝寝坊である。
あわてて筆おろし野郎の携帯に電話すると、彼は完全にフテ寝をしていた。
「まったく今何時だと思っているんすか?」
「ごめんごめん 今からでも行かないか。きっと釣れるぜ。」
詫びて頼むDrops。
気がつけばDropsが筆おろし野郎に筆おろしをお願いしているのである。
あいにく外は雨だった。
雨足は普通だが台風並みの低気圧接近の影響なのか大気が揺れている。時折突風が吹き、ピタッとやむ。そしてまた突風。
空は若干明るい。まあ時間が時間なだけにということもあるけれど。
いけるんじゃないかな。いやいける。
何となくそう思えたDropsはホ-ムグラウンド川ではなくもっと近場のポイントへ筆おろしを連れて行く。
そのポイントは前日までに魚影を確認していたのだ。
天気が天気なだけに。そして時間が時間なだけに…決して間に合わせのポイントではない。念のため。
ここで釣れないわけがない。ここで筆おろしだ!
前日にルアーをどう扱うのかということは簡単に筆おろしに説明してあった。
筆おろしは頭の中でキャスティングやリーリングのイメージトレーニングをしてきたようだ。
あいかわらずキャスティング動作はぎこちなかったが、ルアーをスムーズにポイントに着水させる筆おろし。
「流れの下を通すようなつもりでリーリング。流れ脇で食ってくることが多いから、違和感を感じたらすかさずビシッとあわせる。」
アドバイスはそれだけ。
今日もひたすらもくもくと投げて巻く筆おろし。
30分経過。
何も起こらない。
目の前はいつもと変わらぬ景色。そして濁流。
「本当にいるんすか?」
「いる。」
「まだ流れの下か脇にいるはずだ。水が濁っていても反射的に食う場合がある。」
さらに30分経過
それでも筆おろしは必ず釣れると信じて一心不乱に投げている。
そんな筆おろしとは裏腹にDropsは徐々に自信を失っていく。
雨が激しくなり、流れは濁りから泥交じりに変わってきた。
使い古しのレインウェアから容赦なく冷たい雨が全身に浸透する。
ウェーダーを履いている意味がまったくない。
明らかに筆おろし状況はかなり厳しい。
筆おろしよりもDropsの心が先に折れそうだった。
しかし
それでももくもくと投げて巻く筆おろし。
さらに雨はますます激しくなり、視界さえ悪くなり始めた。
残念だがこれ以上は無理だ。
今靴下を絞ったらおそらく同体積の水が絞れるに違いない。
つまりそれは比重1ということだがこの際そんなことはどうでもいい。
「これだけ水が濁ったら厳しいな。もう少ししたら終わりにしようか?」
うんうんとうなずきながら、それでもひたすら投げて巻く筆おろし。
突然その時は訪れた。
筆おろしのロッド先がしぼりこまれる。
とっさに身を引くようにして合わせる筆おろし。
流れ脇の底から腹を見せてのたうつ魚体が浮いてきた。
必死にロッドを高く上げる筆おろし。
激しくのたうつ魚体に驚く筆おろし。
その後方にもっと驚いているDrops。
ロッドを高く上げ、その高さを維持しながら半ば強引に草むらにランディングを試みる筆おろし。
激しく水面で暴れる魚!
ああ バレそうだ!
身をよじってロッドを右に寄せる筆おろし。
なんとか強引にランディング成功!
気のせいだろうか。
筆おろしの足が震えていたように見えた。
筆おろしはリールは新品だがロッドは時代物のグラスファイバーだ。
おそらく、今風のロッドよりもはるかにダイナミックで強烈な振動を全身で受け止めていたに違いない。
ぐっしょりとぬれた草の上で跳ねる魚体を見た。
すばらしいプロポーションのヒレピンの雄ヤマメだった。
メジャーを当てると29cm。尺にはわずかに及ばなかったが、すばらしい魚であることには間違いない。
土砂降りの中でそのヤマメの前にひざまずいて2人は固く握手をした。
そしてヤマメに向き直り、再びそのすばらしいプロポーションを見て。
ため息をついた。
そしてもう1回固い握手を交わした。
かくして出来すぎるほど完璧に筆おろし野郎の筆おろしは完了した。
帰り際、まだ興奮冷めやらぬ顔の筆おろしに質問した。
釣れた数投前に筆おろしはルアーチェンジしていたようだった。
とは言っても筆おろし野郎はDropsが入門用に提供したDROPS試作品しか持っていない。
どのルアーに替えたのか気になっていたのだ。
「これに替えたんすよ。」
彼が差し出したのは、DROPSの最終テストモデルに一番近い試作品だった。
腹にDropsとマジックで汚いサインがしてある。
Dropsはその1本にたまたま気まぐれサインしてみたのだが、筆おろしはそのサイン入りがもっとも釣れそうに思えたのだという。
だからその1本は最後まで温存しておこうと思ったというのだ。
そしていよいよここで使うしかないと思ってルアーをその1本にチェンジした。
「これに替えてからDropsさんが言った流れの下にうまく潜って行くなあと思ったんすよ。」
「そしたらグーと持っていかれて。きっとこれだと思って合わせてみたら釣れました。」
Dropsとしてはそのルアーが絶対的な威力を発揮したと言うほどうぬぼれてはいない。
彼の得体の知れない予感。
そして最後まで信じて投げ続けたこと。
そこに女神が微笑んだことには間違いない。
ただそれがテストモデルであったとしてもDROPSだったことが素直にうれしかった。
なぜか漠然と釣れる予感がする。
なぜかボールは意思あるプレイヤーに集まる。
なぜかチーム全体が意思を持ったとたんにボールはゴールに向かう。
この世にはセオリーや技術だけでは説明つかないことがまだあるに違いない。
「俺が寝坊したから釣れたんだぜ。」
「寝坊しなかったらもっと釣れたかもしれないじゃないすか。」
天気は最悪だったが、最高のひと時を過ごして2人は車に乗り込んだ。
筆おろし野郎へ
筆おろし心よりおめでとう。
いいヤマメだった。
尺オーバーはハードルが高い。
更なる健闘を祈る。
筆おろし記念にクリックを。


